【事案の概要】
外資系企業であるルーメン・テクノロジーズ株式会社(以下、「会社」)で営業社員として約10年間勤務していたXさんに対し、会社はPIP(業績改善計画)を実施したが、目標未達成を理由として普通解雇した。会社は経営不振の状況にあり、人員整理を目的として本件解雇に及んだものと考えられる。なお、会社は解雇に先立ち、基本給1か月分相当の特別退職金を条件とする合意退職を提案していたが、Xさんはこれを拒否していた。
【労働審判の経過と結果】
Xさんの代理人である私(弁護士・指宿昭一)は、解雇は無効であり就業継続の意思があることを前提に、基本給14か月分相当の特別退職金が支払われるのであれば合意退職に応じる旨を通知したが、会社はこれを拒否した。そこでXさんは労働審判を申し立て、本件PIPには達成不能な目標が含まれており不合理であること、また一部目標は達成されているとして解雇は無効であると主張した。これに対し会社は、PIPは達成可能であり解雇は有効であると反論した。第1回期日において、審判委員会は解雇無効との心証を示し、特別退職金の支払いを前提とした解決を勧告した。第2回期日では特別退職金の金額について合意に至ったが、守秘義務の範囲をめぐり意見が分かれたため、特別退職金の金額のみに守秘義務を付す内容の労働審判が言い渡され、確定した。
【アドバイス】
PIPの未達成を理由に解雇を告げられた場合でも、その内容や運用が不合理であれば、解雇が無効と判断される可能性は十分にある。とりわけ、達成困難な目標設定や評価基準の不明確さ、一部目標を達成しているにもかかわらず解雇に至っている場合には、安易に会社の判断を受け入れるべきではない。
会社から特別退職金を提示された場合も、その金額が妥当かどうかを冷静に検討する必要がある。解雇の有効性に争いがある事案では、基本給1か月分程度の提示で合意に至ることは少なく、交渉や労働審判を通じて条件が大きく修正されることも珍しくない。解雇を前提に即断するのではなく、専門家に相談し、自身の立場や見通しを踏まえたうえで、納得できる解決を目指すことがとても大切なポイントである。
このケースについては、雑誌「労務事情」(2026.2.1日号(発売日2026年02月01日)産労総合研究所)に、「PIPの未達成を理由とする解雇と特別退職金」という表題で執筆をしている。