夫と平日に同居していなかった(週末は同居)だけで、偽装結婚と認定され、退去強制を命じられた中国人女性がその取消しを求めて提訴(2016年10月26日)
原告の夫、長女、孫と共に記者会見(司法記者クラブ)
<事件の概要>
1 2013年10月15日、原告(中国人女性、1953年生)は夫(日本人、1947年生)と日本において婚姻した。その直後、原告は、中国に帰国した。原告は、2014年11月16日、在留資格「日本人の配偶者等」の上陸許可を受けて日本に入国した。
2 原告は、来日後夫が当時居住していた、新宿区のマンションで夫と同居する予定だったが、数日間の同居の後、原告は、暫定的に、長女が居住していた江東区のマンションで長女及びその長男(以下、「孫」)と同居することになった。その理由は、孫の育児を手伝う必要があったことと、夫が、夫の姪と同居していたため、夫の家が手狭だったからである。夫の姪はアルコール依存症であったため、2014年5月頃から、過剰な飲酒をしないように監視する必要があったので、夫が同居せざるをえなかったのである。
3 長女が2015年7月に、江東区から、船橋市に転居したため、原告は、同年9月に同所へ転居した。夫は、その時に、住民票は同所に移したが、勤務先が新宿であったことから、通勤が大変だという理由で、勤務のある日は新宿の家から出勤し、勤務が休みの日には船橋の自宅に戻っていた。いわば、単身赴任的な形で2つの居住地を利用していたのである。
4 同年11月3日、原告は、自宅にいるところを、原告との結婚が偽装結婚であるという理由で、電磁的公正証書原本等不実記載罪の被疑事実で万世橋警察署員に逮捕された。また、同日、夫は、職場から新宿の家に連行され、同所で逮捕された。同年11月20日に原告と夫は釈放され、同年12月24日、不起訴処分となった。夫は、釈放後は、船橋の自宅で原告と同居した。なお、同年12月から、夫の姪は、生活保護を受給して、別のアパートに引っ越したが、その後、肝硬変で入退院を繰り返し、2016年9月19日に逝去した。
なお、原告と夫の逮捕の約2週間後、長女も、電磁的公正証書原本等不実記載罪の共犯の被疑事実で万世橋警察署員に逮捕され、孫は児童相談所に一時保護された。長女も同月20日に釈放された。
5 原告は、2015年10月23日に東京入国管理局に在留期間更新申請をしたが、2016年1月14日、同申請が不許可となり、同日、在留資格を特定活動に変更し、在留期間は2016年2月13日までのところ、日本に夫や家族がおり、日本を離れることは困難だと考えたため、出国することなく、不法滞在となった。
6 原告は、2016年3月7日、入管法違反(不法滞在)の被疑事実で万世橋警察署員に逮捕され、同年3月18日、東京入国管理局に移収され、事情聴取を受け、同年4月26日退去強制の判定を受け、東京入国管理局の収容場に収容された。
なお、長女も、同年3月8日に入管法違反(不法滞在)の幇助の被疑事実で万世橋警察署員に逮捕され、孫は児童相談所に一時保護された。長女の勾留状は却下され、同月10日に釈放された。
7 原告が、収容された後も、原告と夫との婚姻関係は継続しており、夫は、現在、長女、孫とともに生活をしていることから、婚姻の真実性には疑いはない。
8 東京入国管理局において原告の違反調査及び違反審査が行われ、2016年4月5日、原告は、出入国管理及び難民認定法第24条第4号ロ違反の認定通知を受けた。
2016年4月26日、東京入国管理局において口頭審理が行われ、原告は、その後、同局特別審理官から、上記認定は誤りがない旨の判定を受けた。
これを受けて、原告は、法務大臣に異議の申出をしたが、東京入国管理局長は、異議の申出には理由がない旨の裁決をし、2016年5月13日、同局主任審査官は、これを原告に通知した。同日、同局主任審査官は、原告に対し、退去強制令書を発付して、原告を東京入国管理局に引き続き収容した。現在も原告は同局に収容されている。
<本件処分の問題点>
1 入管は、夫婦の同居を婚姻の真実性の絶対的な要件だと考えて判断しているが、これは、現代社会の実情に全く合わない判断である。
なお、本件の場合、夫と姪の同居の事実が偽装結婚の疑いを招いたということもあるだろうが、原告と夫との関係、夫の年齢、姪の病状等を調査すれば、偽装結婚ではないことは容易に判明したはずである。
2 上記の誤った判断の下で在留資格の更新がされなかった原告を、不法滞在を理由に、日本人の夫がいるという事実を無視して退去強制とした判断は誤っている。
*なお、母である原告を自宅に泊めていただけで、不法在留の幇助で逮捕した警察の判断も妥当ではない。