国際自動車事件最高裁で弁論

 本日(2020年2月27日)、国際自動車事件第1次訴訟・第2次訴訟の最高裁の口頭弁論が開かれ、上告人ら代理人として私が、上告人を代表して全国際労働組合執行委員長が弁論を行いました。
 私の弁論要旨は、以下の通りです。
 なお、判決は、2020年3月30日16時に指定されました。

                        弁論要旨
 

                                         2020年2月27日
 
最高裁判所第一小法廷御中
 
                                   上告人ら 代理人弁護士 指宿 昭一

1 労働基準法37条は、憲法27条2項に基づく、労働者が「人たるに値する生活を営む」ための規定であること
 労働基準法37条は、勤労条件の基準を法定することで労働者の生存権の保障を図る憲法27条2項に基づく規定である。労働基準法の労働時間規制は賃金支払い原則と並ぶ労働法制の根幹部分であり、戦後労働法制の中核的部分を構成しているものである。労働者の生存権を始めとした基本的人権が守られなかった戦前の反省から、現行憲法は勤労条件の法定と労働基本権を人権規定の中に盛り込み、これを受けて労働基準法は労働時間規制を設けたのである。労働基準法37条は、この労働時間規制を実効あらしめるための重要規定である。
 これは、「労働者が人たるに値する生活を営む」(労働基準法1条1項)ため、すなわち労働者の生命・健康の維持、家庭生活の確保、自己の時間の確保のための規定であり、①時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する労働基準法の規定を順守させるとともに、②労働者への補償を図るという趣旨による規定なのである。労働基準法37条は、必ず、この趣旨に従って解釈されなければならない。

2 本件賃金規則の割増賃金控除部分は「割増賃金に当たる部分」の減額であり、労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえないこと
 本件賃金規則は、割増賃金を一応は支払うとしながらも、その一方で、割増賃金と同額を控除しているのであるから、当該控除部分は「割増賃金に当たる部分」を減額するものと解釈すべきである。①時間外労働の抑制および②労働者への補償という労働基準法37条の趣旨にかんがみれば、これで労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえないことは明らかである。これ以外の解釈はあり得ない。

3 「対象額A」は、「通常の労働時間の賃金に当たる部分」と「割増賃金に当たる部分」を判別することができないから、「割増賃金に当たる部分」は存在しないことになり、労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえないこと
 労働基準法施行規則19条1項7号によれば、本件賃金規則における「歩合給(1)」は、異なる性質を有する賃金部分が混在した賃金である。すなわち、同規則19条1項6号の「出来高払制の賃金」(「対象額A」)と労働基準法37条の「割増賃金」(「割増金」)と同条5項の「通勤手当」(「交通費」)が混合した賃金なのである。つまり、「歩合給(1)」において、「通常の労働時間の賃金に当たる部分」である「出来高払制の賃金」から「割増賃金」(に当たる部分)が控除されているのであるから、本件賃金規則において「割増賃金に当たる部分」は支払われていないことになるのである。
 もし、万が一、このように言えないとしても、そもそも、本件賃金規則における「対象額A」は、「通常の労働時間の賃金に当たる部分」と「割増賃金に当たる部分」を判別することができないから、その意味でも、「割増賃金に当たる部分」が支払われたとはいえない。
 
4 労働基準法37条に反する原審判決を容認すれば、労働法制の否定につながること
 以上、述べたように、本件賃金規則は労働基準法37条等に違反して、割増賃金を支払わない違法なものである。しかし、原審判決は、契約自由の原則などを持ち出して、強行法規である労働基準法37条に違反する本件賃金規則を適法として、上告人らの請求を棄却した。これは、憲法に基づく戦後労働法制の根幹部分を否定し、その破壊に道を開く不当判決であり、絶対に容認できない。これは、戦後労働法制を否定する判決であり、すなわち戦後民主主義の破壊に道を開くものである。
 最高裁判所におかれては、原審判決の誤りを正し、憲法と労働法に基づき、上告人らの請求を容認する判決を出していただきたい。
以上

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