大学の組織再編・統合化方針による大学自治破壊と闘おう

  • Home
  • お知らせ
  • 大学の組織再編・統合化方針による大学自治破壊と闘おう

大学の組織再編・統合化方針による大学自治破壊と闘おう

2025年5月3日

弁護士 指宿 昭一

 

中教審「少子化」答申で打ち出された大学の組織再編・統合化方針は、大学の自治を破壊し、学生の学習権、学生・教員の学問の自由を侵害する危険を有している。この問題について、以下、論じる。

 

1 国立大学法人における文系学部・大学院の廃止・他分野への転換方針(文科省)

2015年6月8日、文部科学省は、「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しについて」という通達を出し、「教員養成系学部・大学院、人文科学系学部・大学院について」の「組織見直し計画策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」とする方針を打ち出した。

 

2 大学規模の「適正化」のための組織再編・統合化方針(中教審「少子化」答申)

2025年2月21日、中央教育審議会は、「高等教育全体の「規模」の適正化」方針を含む答申「我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~」(内容的には「少子化」対応答申)を文部科学大臣に提出した。この方針は、急速な少子化の中で、大学進学者数推計が62.7万人(2021)から59.0万人(2035)へ、さらに 46.0万人(2040)へと減少することから、①厳格な設置認可審査(要件厳格化、履行が不十分な場合の私 学助成減額・不交付)、②再編・統合の推進(定員未充足や財務状況が厳しい大学等を統合した場合のペナルティ措置緩和、再編・統合等を行う大 学等への支援)、③縮小への支援(一時的な減定員を容易にする仕組み創設)、④撤退への支援(卒業生の学籍情報の管理方策構築)を進め、今後10年間で、全国の大学の組織再編・統合化を進めるというものである。なお、この答申は、中教審副会長で、同大学分科会長である永田恭介筑波大学長がまとめたものである。

 

3 筑波大学における3学類統合問題

ZAITEN2025年6月号(5月1日発行)によると、筑波大学では、人文・文化学群に所属する人文学類、比較文化学類、日本語・日本文化学類の3学類を2029年4月に統合し、人文学専門学群とする構想が進められている。この構想は、3学類の教員の会議で報告事項として扱われただけで、審議事項としては扱われておらず、また、学生や他の学類の教職員にはまったく知らされていない。これは、これは、2月の中教審「少子化」答申に基づいて、永田学長が、大学組織再編・統合の「先駆け」として進めようとしているものであると考えられる。これは、①大学自治(教員自治・学生自治)を無視したトップダウンによる非民主的なやり方で進められている構想であり、②合理化による教職員への人員削減や労働強化が伴う恐れがあり、③文系学部の廃止・転換の文科省方針に沿って、3学類の学生の学習権を侵害するものであり、到底、容認できるものではない。

 

4 大学の組織再編・統合化による、大学自治破壊、学習権と学問の自由の侵害に抵抗しよう

今後、全国の大学で、大学規模の「適正化」のための組織再編・統合化が同様のトップダウン方式で進み、合理化による人員削減や労働強化が行われ、学生の学習権が侵害される事態が進む危険がある。

かつて、日本においては、1950年代後半に政府が打ち出したエネルギー政策の転換の下での石炭産業の合理化・縮小方針が、全国の炭鉱の閉鎖と炭鉱労働者の大量解雇をもたらし、これが、1960年の、「総資本対総労働」の闘いといわれた三井三池炭鉱争議を引き起こした。中教審「少子化」答申も、国の大学政策の大きな転換の下で、これから10年間において、全国大学における大争議を引き起こす可能性がある。

大学の組織再編・統合化の下で、大学の自治が破壊され、学生の学習権と学生・教員の学問の自由が侵害され、教職員の労働権が破壊されようとしている。これに抵抗する、学生、教職員と市民による取り組みが求められる。

以上

 

<参考資料>

我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~(答申)(中教審第255号)

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1420275_00014.htm

 

「我が国の「知の総和」向上の未来像(答申)」のポイント解説〜永田筑波大学長(第12期大学分科会長)〜

https://www.youtube.com/watch?v=eKhC4_AQvcM

PREVIOUS