労働者側労働事件/入管事件(出入国時のトラブル)の暁法律事務所 労働者側労働事件 入管事件(出入国時のトラブル) 指宿昭一:法を尊び法に頼らず

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新たな外国人労働者受入れ制度に対する声明

2018年11月16日
外国人労働者弁護団
代表 指宿 昭一

1 新たな外国人労働者受入れ制度
政府は、2018年6月15日、経済財政諮問会議の答申を経て、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(以下、「骨太の方針2018」という)を閣議決定し、この中で就労を目的とする新たな在留資格を創設し、外国人労働者の受入れを拡大することを表明した。そして、これを受けて、同年11月2日、新たな在留資格として「特定技能1号」及び「特定技能2号」を創設し、入国管理局に代えて「出入国在留管理庁」を創設すること等を内容とする入管法改正法案が閣議決定され、第197回国会に上程された。なお、受入分野、技能試験、受入れの前提としての人手不足を判定する方法等の制度の大部分については、同法案が成立した後、法務省令等で定めることとされている。
政府は在留資格「特定技能」を創設することにより、2019年4月1日から、同在留資格に基づく外国人の受入れを開始し、5年間で最大34万人の外国人労働者を受け入れ予定であるとのことである。また、受入分野についても、当初、経済財政諮問会議において示されていたのは、農業、建設、宿泊、介護、造船の5分野のみであったものの、その後の報道によると、外食や飲食料品製造等が加わり、14分野に及ぶ可能性が示唆されている。また、「特定技能2号」へ移行可能な職種については、上記のうち5業種に絞られる可能性も示唆され、現時点では建設と造船のみが予定されているとのことである。
これまで政府は、専門的・技術的分野以外の非熟練労働(いわゆる「単純労働」)としての外国人労働者を受け入れないという方針を堅持してきた。しかし、実際には、技能実習生や留学生といった、本来は就労を目的としない在留資格を有する者が、非熟練労働の分野において就労し、日本経済を支えてきた。
骨太の方針2018においては、「従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある」と明記されている。これは、「一定の専門性・技能」という限定は付されているものの、従前の方針を実質的に転換し、非熟練労働を含めた外国人労働者の受入れを行うことを表明するものである。
日本社会における少子高齢化及びこれに起因する人手不足は顕著であり、今後、あらゆる人手不足の分野において、同制度が拡大される可能性は極めて高い。

2 当弁護団にこれまで寄せられた相談
 当弁護団では、創設以来、外国人労働者向けの多言語電話相談会を開催するとともに、常設の電話相談を行い、交渉・労働審判・訴訟を通じて、個別事件の解決につとめてきた。
その中では、賃金未払い、不当解雇、労災といった日本人労働者と同様の相談のほか、外国人労働者特有の相談として、以下のようなものが数多く寄せられた。苛酷な労働条件で就労しているが、退職すると在留資格を失ってしまうため職場を変わることができない、来日時にブローカーに多額の手数料を支払っており、退職や帰国することができない、日本で長年就労しているが、母国から家族を呼び、共に暮らしたいといった家族結合に関する相談等である。
 このような相談事例にも鑑みて、当弁護団は、新制度の問題点について、以下の通り指摘したい。

3 新制度の問題点
入管法改正法案によって創設される新制度の詳細については、法務省令等で今後定められる予定となっている範囲が極めて広範であり、現時点では明らかではない部分が多い。しかしながら、技能実習制度やその他の就労を目的とする在留資格において発生した事例に鑑みれば、以下のとおり,新制度でも同様の問題が生じる可能性は高い。
⑴ 職場移転の自由
技能実習制度は、職場と在留資格が密接に結びついており、職場移転の自由を認めないものであったため、技能実習生が雇用主に対して不服申立てをしたり、外部へ相談したり、退職したりすることができず、そのことから様々な労働関係法令違反や人権侵害が生じた。また、技能実習生以外の就労を目的とする在留資格においては、当該在留資格の範囲内での職場移転は形式的には禁じられてはいないものの、雇用主や母国のブローカーの圧力等によって転職が容易ではなく、やはり同一の雇用主のもとで就労を継続しなければならないケースもある。
入管法改正法案では、入国・在留を認めた分野の中での転職を認めることとされており、この点については、一定の評価をすることができる。しかし、上記のようなブローカー等を排除し、職場移転の自由を実質的に保障するためには、ハローワーク等の公的機関が転職先企業とのマッチングや転職支援を行うことが不可欠である。
⑵ 民間団体の関与と中間搾取
技能実習制度では、母国における送り出しと日本での受け入れの各過程において、それぞれ送出し機関及び監理団体という民間団体が関与している。また、送り出し国の農村部等から、都市部の送り出し機関へと候補者を斡旋し、手数料を徴収するブローカーも存在している。こうした、複数の民間団体が、送り出しのプロセスに関与することによって、中間搾取をはじめとする様々な人権侵害が発生してきた。また、その他の就労を目的とする在留資格や留学生においても、虚偽の労働条件を提示し、高額な渡航前費用を徴収する送出し国のブローカーの関与は顕著である。
この点に関する十分な対処をせずに、技能実習制度と同様、母国と日本おいて民間団体が関与することになれば、技能実習制度で生じたものと同様の問題が生じる可能性が極めて高い。確かに、骨太の方針2018では、「今後、外国人材から保証金を徴収するなどの悪質な紹介業者等の介在を防止するための方策を講じる」と明記されている。しかし、現時点では、具体的な方策は省令等に委ねられることとなっている。また、不当に高額の渡航前費用を徴収することや日本におけるブローカーの介在等についての対策は何も示されていない。
少なくとも、外国人労働者の募集及び送り出しは、公的機関が担当すべきである。また、現在技能実習制度において、送り出し国との間で締結されている二国間協定について、より実効的な内容としてうえで、各国と締結を行うべきである。
⑶ 家族帯同を認めないこと 
骨太の方針2018では、同方針で示された「政策方針は移民政策とは異なるものであり、外国人材の在留期間の上限を通算で5年とし、家族の帯同は基本的に認めない」と明記されている。なお、新制度で就労後、現行の専門的・技術的分野の在留資格へ移行し、定住化への道を認めることは、同方針でも否定はされていない。
しかしながら、入管法改正法案においては、「技能実習」で5年就労した後に、「特定技能1号」で5年間就労した労働者は、最長で10年間という長期にわたって、家族の帯同が認められないことになる。外国人労働者が家族と共に暮らすことは、人としての当然の権利であり、短期的な労働力として外国人労働者を受入れ、その労働者の家族結合・定住化を許容しないという態度は不適切である。「労働力」ではなく「人」としての受入れを行うべきである。
新制度は、労働者の受入れのための制度である以上、労働者が望む場合には家族と共に日本に滞在しつつ就労し、一定の場合には、定住化への道を正面から認めるべきである。
⑷ 永住要件について
 新制度の導入に際して、政府は、これまでの永住要件の厳格化の方針を打ち出している。すなわち、現行の永住許可ガイドラインにおいては、10年間の継続在留が要件とされており、さらに、同期間のうち5年間は就労資格を有する在留が必要とされている。しかし、「技能実習」及び「特定技能1号」での在留は、上記5年間の就労期間に算入しないという、同ガイドラインを厳格化する方向での改定が検討されている。
 しかし、既に、⑶で述べたとおり、外国人労働者をいずれ帰国する短期的な労働者として受け入れるのではなく、人としての受入れをすべきである。そして、人として受け入れる以上は、日本への定住化への途も開かれなければならない。
したがって、特に「特定技能1号」での就労期間について、永住要件の一つである5年の就労期間に算入されないとする同ガイドラインの改定は、するべきではない。
⑸ 支援体制について
 骨太の方針2018では、「受入れ企業、又は法務大臣が認めた登録支援機関が支援の実施主体となり、外国人材に対して、生活ガイダンスの実施、住宅の確保、生活のための日本語習得、相談・苦情対応、各種行政手続に関する情報提供などの支援を行う」とされており、新制度においては、受入れ企業から費用を受領することとなっている。
 技能実習制度において、技能実習生からの相談対応や行政手続を担ってきたのは監理団体であった。しかし、監理団体は、既に述べたように、民間の中間団体として中間搾取の原因となるだけでなく、相談のもみ消しや実習生の強制帰国の主導など、権利侵害を助長する主体となることも多い。
 新制度において、登録支援機関は届出制であり、一定の欠格事由等がない限り、届出が可能となっている。同機関の主体がどのような組織となるかは、現時点では明かではないが、技能実習制度における監理団体が横滑りするような事態となることは、決してあってはならない。同機関は、NGOや国際交流協会等が関与して、弁護士も参加する仕組みを構築すべきである。

4 おわりに
以上の点に鑑みると、骨太の方針2018で示された政策方針及び入管法改正法案に沿って、非熟練労働の分野において外国人労働者を受け入れる新制度を創設したとしても、技能実習制度等と同様の労働関係法令違反・人権侵害が生じる可能性は決して低くない。また、新制度が第二の技能実習制度として、構造的に労働関係法令違反や人権侵害を伴う安価な労働力確保の制度となるおそれもある。
そのような事態を防ぐためには、そもそも、入管法改正及びそれに基づく政省令の改正による新制度の創設という場当たり的な外国人労働者受入れ制度とするのではなく、外国人労働者受入れ制度に関する新法の制定を含めた抜本的な議論をすべきである。
そして、どのような制度を設計するとしても、外国人を労働者として受け入れる以上、その外国人労働者に対して労働関係法令が適用されることはもちろん、外国人労働者が労働基本権を行使して、団結することが、法律上のみならず、実質的にも保障されなくてはならない。
さらに、労働力としてではなく、人としての受入れを行うべきであるから、一定期間日本において就労する外国人労働者については、家族の帯同を認め、定住化への途を開くべきである。
 当弁護団では、今後も労働相談、個別事件の解決を通じて、外国人労働者の権利擁護を図るとともに、あるべき制度について、提言を行っていく所存である。
以上

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