2018年11月20日
「実習実施者等から失踪した技能実習生」に係る調査結果に対する声明
外国人技能実習生問題弁護士連絡会
共同代表 指 宿 昭 一
共同代表 小 野 寺 信 勝
共同代表 大 坂 恭 子
事務局長 髙 井 信 也
法務省は、今国会で「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案」(以下、「入管法改正案」という。)が審議されるにあたり、2017年中に退去強制手続きを受けた外国人の中で、「実習実施者等から失踪した技能実習生」に対して行われた聴取の結果に基づき、「失踪技能実習生の現状」と題する資料をまとめたが、「失踪の原因」については、「➀技能実習を出稼ぎ労働の機会と捉え、より高い賃金を求めて失踪するものが多数」、「②技能実習生に対する人権侵害行為等、受入れ側の不適正な取扱いによるものが少数存在」等と報告した(以下、「本件報告」という。)。
しかしながら、その後、本件報告の基礎資料となった「実習実施者等から失踪した技能実習生に係る聴取票」(以下、「個票」という。)には、「より高い賃金を求め」たという項目が存在せず、本件報告に表れた数値にも多くの誤りがあることが明らかとなった。
当連絡会は、下記の通り、技能実習制度を巡る法務省の杜撰な現状調査と、事実を歪曲した本件報告に強く抗議するとともに、深刻な構造的問題を抱える技能実習制度の廃止を早急に求めるものである。
記
法務省が本件報告の基礎資料とした個票には、「失踪動機」を回答する選択肢として、「低賃金」、「低賃金(契約賃金以下)」、「低賃金(最低賃金以下)」、「労働時間が長い」、「暴力を受けた」、「帰国を強制された」、「保証金・渡航費用の回収」、「実習実施後も稼働したい」、「指導が厳しい」、「その他」の10項目が設けられていた。
法務省は、当初、2892人から聴取した結果、2514人(86.9%)が「より高い賃金を求めて」失踪していると報告したが、「より高い賃金を求めて」と報告された数は、実際には、「低賃金」、「低賃金(契約賃金以下)」、「低賃金(最低賃金以下)」という回答の数の合計であり、その数も、正しくは1929人(67.2%)であったことが明らかになった。
言うまでもなく、「低賃金」を理由に失踪する者の中には、最低賃金を大幅に下回る賃金しか支払われず、長時間、あるいは休日のない連続勤務を強いられたため離職せざるを得なかった者もいるのであり、「より高い賃金を求め」たとして、あたかも利欲的な意図から失踪したと捉えることは事実を歪曲するものである。
同時に、個票における回答の中には、低賃金、暴力、帰国を強制等、人権侵害を窺わせる回答が少なからず含まれており、本来であれば、法務省は、実習実施者等について実態調査に乗り出し、人権救済と再発防止を図るべき立場にある。
しかし、本件報告は、単に「人権侵害行為等、受入れ側の不適正な取扱いによるものが少数存在」と結論づけているのであるから、調査結果の受け止めが不十分であり、真相解明や人権救済の視点に欠けると言わざるを得ない。
さらに、個票には、送出し機関に支払った金額、借入金の返済方法、実習実施者等における月額給与、控除額、労働時間等、技能実習制度の実態把握に有用な情報が多数含まれている。報道によれば、衆議院法務委員会の理事らが個票を閲覧したところ、技能実習生の多くが月給を「10万円以下」、母国の送出し機関に支払った額は「100万円以上」と回答しているほか、失踪の理由について「最低賃金以下」と回答した技能実習生以外にも、支給賃金と労働時間から正確な賃金計算を行えば、最低賃金以下の支払いしか受けていない技能実習生が相当数存在する可能性があるとのことである。
これらは、技能実習制度の検証のためにも重要な情報であるから、衆議院法務委員会の理事ら一部の国会議員に閲覧を許すだけでは足りず、プライバシー保護の観点から非公開とすべき部分を除き、法務省により手を加えることなく個票自体を公表し、市民や弁護士による検証を可能としなければならない。
次に、技能実習制度は、途上国への技術移転により国際貢献を図るという名目と、安価な労働者の受入れ制度として機能しているという実体に大きな乖離があり、その乖離は、拡がる一方である。
しかし、技能実習生は、技能実習制度の名目が引き続き維持されるが故に、職場移転の自由が認められず、深刻な人権侵害に遭っても、帰国させられることを恐れて救済を求めがたい状況にある。
また、多くの技能実習生は、来日前に本国の送出し機関に対し高額な手数料や保証金を支払っており、その支払いのため多額の借金を背負い、来日後は、返済のために必死に働かなければならない状況にある。そのことは、本件報告の基礎資料において、2870人の回答者の内、実に2552人が「借入」により送出し機関へ支払う資金を調達したと回答していることからも明らかである。
このように技能実習制度は、制度と実態の乖離が解消できず、このことが人権侵害の温床となっているという構造的問題を解消できないのであるから、直ちに廃止するほかない。
したがって、入管法改正案を審議するにあたっては、技能実習制度廃止の議論を同時に行うことが不可欠であり、当連絡会は、改めて技能実習制度の廃止を強く求めるものである。
以上