2018年11月22日(木曜日)、衆議院法務委員会で入管法改正法案について意見陳述しました。
衆議院のHPに議事録が出ていました。
第197回国会 法務委員会 第6号(平成30年11月22日(木曜日))
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000419720181122006.htm
委員会経過 第197回国会 第23号 平成30年11月22日木曜日
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kouhou.nsf/html/kouhou/AF2392_1971122.htm
○葉梨委員長 ありがとうございました。
次に、指宿参考人にお願いいたします。
○指宿参考人 日本労働弁護団常任幹事で弁護士の指宿昭一と申します。
意見を述べさせていただきます。
私は、この十一年間で、外国人研修生若しくは技能実習生を当事者とする民事訴訟ないし労働審判を十六件担当してきました。原告と申立人の数を数えてみましたところ、四十一人になります。これ以外にも、本当にたくさんの技能実習生からの法律相談を受け、交渉によって事件を解決したことも何度もあります。
また、十年前に外国人技能実習生問題弁護士連絡会という弁護士の団体を結成し、その共同代表を務めております。この団体は、全国に約百五十名の弁護士の会員が加入していまして、全国で数多くの技能実習生から相談を受け、また訴訟などに取り組んでいます。
また、これとは別に、外国人労働者弁護団という、これも弁護士の団体の代表も務めております。これは、技能実習生を含め、それ以外の外国人労働者も含めた電話相談を日常的に行い、また、年に一、二回の無料相談会などを開催するなどして、外国人労働者の労働問題に取り組んでおります。
私のこのような経験を踏まえて、これから意見を述べさせていただきたいと思います。
まず、外国人労働者受入れ制度を創設すること自体についての意見を述べます。
今回の法案は、外国人労働者の受入れを目的とする制度をつくるということを正面からうたっています。しかし、先ほど鳥井参考人からも話があったように、実際にはもうずっと前から、非熟練分野を含めた外国人労働者の受入れは行われてきました。
昨年、二〇一七年十月末の段階で、約百二十八万人の外国人労働者が日本で働いているという数字が出ています。そのうち約二十六万人が技能実習生です。そして、資格外活動の人が約三十万人です。これは、その多くが留学生だと思われます。実際には、このように多くの非熟練の外国人労働者の受入れをしながら、これを正面から認めてこなかったということが極めて異常なことであったと思います。
技能実習制度の目的は、技術、技能の移転により国際貢献をすることだと説明されてきました。しかし、これは真っ赤なうそです。技能実習制度が労働力確保の手段として使われてきたことは、誰の目にも明らかです。マスコミでもそう報道されていますし、いや、法務省自身がそのことは百も承知なのではないでしょうか。これまで、カラスは黒いという真実を覆い隠して、政府はカラスは白いと言い続けてきたようなものです。もうこういうことはやめるべきです。
今回の法案の目的が外国人労働者の受入れであることを明確に示したことによって、大きな議論が巻き起こっています。いわば、パンドラの箱があいたわけです。そうであれば、外国人労働者の受入れをめぐる本格的な議論をしっかりすべきです。この機会に、国会でも、また市民社会においても、そしてマスコミ等々においてもしっかり議論する、そのチャンスが今来ているんだと思います。拙速な議論で、中身の議論をきちんとしないで法案を通してしまうようなことは決してあってはならないと思います。
技能実習制度について、もう少し述べさせていただきます。
技能実習制度には構造的な問題があります。時給三百円や四百円で残業している技能実習生は、今も数多くいます。今もです。昨年の技能実習法施行以降も、私や私たちのところにはたくさんのそのような相談が来ています。
先日、これは少し前の事件ではありますけれども、十一月九日に、私の担当している事件で、水戸地裁が、技能実習生の未払い残業代請求について約百万円の支払いを命じました。これはきょうの資料の二の一から三に入っていますので、ごらんいただければと思います。
この裁判所の事実認定を前提にすると、残業の時給が四百円でした。もちろん、これは最低賃金法に違反する違法な賃金です。このようなことが日常茶飯事で今も多くの技能実習生の働く現場で行われているのです。
私の資料の一をごらんください。厚生労働省が毎年出している資料です。外国人技能実習生の実習実施機関に対する監督指導、送検等の状況という資料です。
二〇一七年の場合、一枚めくっていただいて、二ページの上の方を見ていただくと、「全国の労働基準監督機関において、実習実施者に対して五千九百六十六件の監督指導を実施し、その七〇・八%に当たる四千二百二十六件で労働基準関係法令違反が認められた。」と記載されています。そして、この後の方に出てくるんですが、悪質な労働基準法令違反が認められて労働基準監督機関が送検した件数が三十四件あります。労基法違反で送検されるということはまれなことですから、これは決して少ない数字ではありません。
そして、幾つか事例が載っています。賃金月額六万円の事例、残業時給が三百五十円の事例、四百円の事例、そして時間外労働が月百六十時間の事例、労災隠しを行った事例、複数の技能実習生が、課長がけがをした技能実習生の胸ぐらをつかんで殴ったと証言している事例などがここでは報告されています。
これは、この年の報告書だけじゃありません。ぜひ、さかのぼって見てください。毎年、こういう報告がされている、同じような数字が出ています。もっとひどい事例もたくさん出ています。なお、二〇一八年のデータはまだ出ていませんが、私どもが実際に相談を受けている実感からすれば、またことしも同じようなデータが出てくるのではないかと考えています。
では、技能実習生はこうした労働基準関係法令の違反に対して、声を上げることができているのでしょうか。労基署などの機関に相談し、是正を求めて申告することができているのでしょうか。
これも資料を見ていただきたいんですが、五ページ、申告状況というデータ、(1)のところですね。平成二十九年のところを見ると、八十九という数字が出ています。八十九件ですよ、一年間で。違反事例が四千二百二十六件出てきているのに、八十九件しか申告ができていないんです。パーセントでいえば、たったの二%です。九八%の違反については、技能実習生は申告をしていないんです。
この事例の最初のところ、三ページの事例とかを見ると、これは「情報を端緒に、」と書いてあるんですね。誰かが情報提供したんだと思います。四ページの事例三、下の方を見ると、これも「情報を端緒に、」と。本人じゃなくて、誰かが通報してくれて、それで調査が始まったということですね。
なぜ、技能実習生は声を上げることができないのでしょうか。単に知識の不足とか言葉の問題ではありません。三つの原因があると思います。
一つ目の原因は、まず、送り出し国において、送り出し機関から多額の渡航前費用を徴収されているということ。そして、権利侵害に対して声を上げないという約束をさせられて、しかも、その約束を担保するために保証金を徴収され、違約金契約を締結させられているんです。さらに、この違約金契約には保証人までつけられています。
渡航前費用というのは、技能実習生のその国における数年分もの年収に当たるような金額で、私が聞いた事例では、ベトナムの場合で百万円程度取られている人がたくさんいるということを聞いています。ほとんどの場合、この渡航前費用を借金をして工面しています。この借金を返さなければいけませんから、解雇されたり、途中で帰国させられたりしたら大変なことになるわけです。借金だけが残るわけです。だから、技能実習生は、どんな違法な労働条件でも我慢して働かざるを得ないんです。
二つ目の原因は、日本で職場を移動する自由がないことです。技術、技能を習得して国際貢献をするという建前のために、技能実習生は、同じ職場で計画に従って実習をしなければならないことになっています。その職場に問題があっても、他の企業に転職することができません。
よく日本では、嫌ならやめて、よそで働けばいいということが言われます。ところが、技能実習生にはその自由すらないのです。残業時給が三百円で、これはおかしいと思っても、それを労基署に申告して、それが原因で解雇されたり、あるいは帰国させられたら、借金だけが残ってしまうわけです。
こういう違法な事例の場合には、一応、制度上は、例外的に実習先を移ってもいいという制度にはなっています。でも、実際には移れません。まず、移る先が見つけられない。我々弁護士や労働組合が一生懸命探して、まれに移るところが見つかることがありますが、それは極めて困難です。三年間働いて、借金を返済した上で、家族のために稼ぎを持ち帰ろうと思って日本に出稼ぎに来ている実習生たちは、途中で帰国することになれば借金だけが残る。だから、申告なんかとてもできないわけです。
三つ目の原因は、技能実習生が権利を主張すると、受入れ企業や監理団体によって、本人の意思に反して強制的に帰国させられてしまうということがあるということです。これを我々は強制帰国というふうに呼んでいます。
もちろん、受入れ企業や監理団体に強制帰国をさせる権限があるわけではありません。暴力や脅迫によって、本人の意思に反して強制的に帰国させるということは犯罪です。しかし、そういう信じられないことが実際には行われているんです。しかも、そういう受入れ企業の犯罪行為はほとんど取り締まられていません。実際に、私の事務所に相談に来た技能実習生が、その一週間か二週間後に帰国させられてしまった、強い圧力を受けて帰国させられてしまったということがあります。また、民事裁判の裁判で、強制帰国が不法行為であると認定されて損害賠償が認容されたということもあります。これは資料三につけておきました。新聞記事をつけておきました。
技能実習生は時給三百円の労働者と言われていますが、その背景として、実習生が物を言えない労働者であるという事実があります。これは、一部の悪い受入れ企業や監理団体がたまたま違法行為をしているという問題ではありません。技能実習制度の構造的問題に起因しています。
今回の法案審議の前提として、法務省は、なぜこの技能実習制度の廃止を打ち出さなかったのでしょうか。法務省も、この制度が何度も改正に改正を重ねても、この構造的問題が解決できてこなかったということは知っていると思います。本当は、技能実習制度の廃止を前提に、新たな外国人労働者受入れ制度の創設を提案すべきだったと思います。技能実習制度の過ちを認めて、それを前提に議論をしようとしないから混乱が生じるのだと思います。
今、技能実習生の失踪ということが言われています。私は、失踪ではなくて、これは緊急避難ではないかと思っています。この失踪の調査結果の誤りという問題がありますが、これも先ほど述べたような法務省の姿勢に基づくものだと思います。技能実習制度の失敗を認め、同じような人権侵害、権利侵害を繰り返さない制度をつくるという強い決意を持って新制度の検討に臨まなければ、また同じ過ちを繰り返します。新制度を第二の技能実習制度にしてしまうようなことは絶対にあってはなりません。
実習生に対するさまざまな人権侵害の事案については、ほかにも新聞記事等々、資料をつけておきましたので、ごらんください。
もうほとんど時間がありませんので、外国人労働者の受入れ政策、今回の新制度について、課題、問題点について少し簡潔に指摘をしたいと思います。
まず、職場移動の自由を完全に保障する必要があります。
一応、今度の新制度では認められているとされていますが、本当にそれが実質的に保障されるか、それはまだ未知数です。ハローワークなどによる情報提供やあっせんなどが行われて本当に移る先が見つからなければ、絵に描いた餅になると思います。
二点目に、送り出し国におけるブローカー規制が必要です。
これは、単に日本の制度として保証金を取っちゃいけないよとかいうだけではなくて、送り出し国との条約ないし二国間の協定を結んだ上で、相手国にブローカー規制を義務づけるべきです。多額の渡航前費用を取ることは禁止すべきです。保証金、違約金契約も禁止すべきです。そして、その取決めに違反があった場合は、その国からの受入れは停止すべきだと思います。
三点目に、日本におけるブローカー規制も必要です。
これは、登録支援機関が悪質なブローカーとして中間搾取や人権侵害をする危険がとても高いと思うからです。これは先ほど坂本参考人もおっしゃられていたので、これぐらいにします。
四点目、家族帯同を認め、定住化に結びつく可能性を開くこと。
五年間、家族と離れて暮らせというのは、余りにも過酷であり、人権侵害ではないでしょうか。実習生の期間と合わせれば十年ということもあるわけです。ここはぜひ見直しが必要だと思います。
そして、果たして一号で在留資格の上限を決める必要があるのか。そして、一号から二号に移るのは厳しくすべきだという意見もあるようですけれども、定住化につながる受入れというのは、外国人労働者の利益になるだけではなくて、日本の受入れ企業、また日本社会の利益になるということも考えるべきだと思います。
五点目、基準の透明性、客観性を確保する必要があると思います。
受入れの数や職種、在留資格の更新、変更の基準を法務省の裁量に任せて密室で決めるのではなくて、公開の審議会などで毎年きちんと審議をして決めていくべきだと思います。
受入れ後の共生政策について少し述べます。
まず、支援体制については、登録支援機関に任せるのではなくて、国や国から委託されたNGOなどが責任を持つべきだと思います。
日本語教育については、国が基準を設け、また、予算も確保するべきだと思います。
共生政策について。受入れと共生政策の実現は、車の両輪として不可欠のものです。共生政策の基本法を設け、これを国の責務として明確に位置づけ、財政的な根拠をつくるべきだと思います。
最後に、入管庁の設置について。
外国人政策は、共生政策と在留管理政策の二つが必要です。共生政策抜きで在留管理だけ行うというのはおかしいことであるし、また、それだけをやるならば、何も入管庁にする必要はないと思います。両方の政策を行う、例えば共生庁あるいは多文化共生庁、外国人労働者庁といった省庁を、法務省のもとにではなく、別につくるべきだと思います。
そして、入管行政全般については、現在の出入国管理における身体拘束制度は、収容の必要性や相当性に関する要件や期限を設けないものとなっています。無期限に、百年でも収容できるわけです。これは国際的な基準に適合していません。新たな受入れ制度を創設するに当たっては、国際人権基準に適合した入管行政の整備が必要です。
これだけ課題のある法案です。数日の審議で決めることができるのでしょうか。できないと思います。
外国人労働者の受入れは、目先の人手不足対策のため、使い捨ての受入れという観点でやってはだめです。この問題は、日本がどういう国と社会を目指していくのかということにかかわる、極めて重要な問題です。ぜひ、時間をかけて慎重な審議をお願いしたいと思います。
以上で終わります。(拍手)
○葉梨委員長 ありがとうございました。