国際自動車事件弁護団として日本労働弁護団賞受賞

2020-11-14

 昨日、日本労働弁護団総会で、国際自動車事件弁護団として日本労働弁護団賞を頂きました。

 以下、受賞のスピーチです。

日本労働弁護団賞受賞スピーチ
                2020年11月13日
 国際自動車事件弁護団 弁護士 指宿 昭一
「私たちには残業代が支払われていないんです。」
 この訴えから、この事件は始まりました。今から8年半前、2012年3月10日、国際全労委員長の伊藤博さんの訴えでした。私は、弁護士登録してから5年目の駆け出しの労働弁護士でした。弁護団の谷田弁護士は登録3年目でした。
2012年年5月21日に東京地裁に原告15名で提訴。審理が長期に及んだので、2014年10月8日には、賃金請求権の時効消滅を避けるために、東京地裁に原告14名で第二次訴訟を提訴しました。
 2015年1月28日、第一次訴訟で勝訴判決を得ました。佐々木宗啓裁判長は、①原則として売上高が同じである限り、時間外等の労働をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は全く同じになるのであるから、本件賃金規定は、法37条の潜脱するものといわざるを得ないとして、②歩合給の計算過程において、割増賃金を控除している部分は、法37条の趣旨に反し、公序良俗に反するものとして、民法90条により無効であるとし、差し引かれている割増賃金と同額の金額の支払いを命じました。
 この勝訴判決を受けて、私は、国際全労に原告の拡大を提案し、国際全労これを受けて、全営業所へのビラまきを行い、連続的に第3次訴訟提訴に向けた労働者向けの説明会を行いました。説明会には弁護団も参加して、説明会に参加した労働者に原告団への参加を呼び掛けました。説明会には多くの労働者が集まり、国際全労は破竹の勢いで原告団と組合員を拡大しました。2015年9月17日、178名が原告となり、約3億円の不払残業代等を請求する第3次訴訟を東京地裁に提起しました。更に、2016年4月21日、原告22名で第四次訴訟を提起。原告団は合計で224人、請求額は3億4731万4443円となりました。
 2015年7月16日、第1次訴訟控訴審で、水野邦夫裁判長は、第一審佐々木判決と同様の結論の勝訴判決を言い渡しました。
 ところが、2016年4月21日、第2次訴訟につき、東京地裁の清水響裁判長は、原告敗訴の判決を言い渡しました(平成28年4月21日東京地裁民事19部判決。清水判決は、①歩合給の定め方や算出方式等について、明示的に規制をした法令又は通達の定めはないのだから、歩合給のもとで、労働の成果を踏まえた賃金の算出方法をどのように定めるかは、強行法規に違反しない限り、当事者の自由であり、②労基法37条は、歩合給の算出方法について規制している規定ではない。労働の成果の評価方法として、揚高から経費に相当する部分を控除する算出方法をとることは不合理ではない、等として被告の「残業代ゼロ」制度を容認しました。私は、この判決には強い怒りを覚えましたが、すでに第1次訴訟の高裁で勝訴判決を得ていたこともあり、控訴審で逆転できると楽観していました。
2017年2月28日、最高裁第三小法廷で、第1次訴訟の判決が出されました。主文は、東京高裁の判決を破棄し、差戻すというものでした。判決は、国際自動車の賃金規則が、①「通常の労働時間の賃金」にあたる部分と「割増賃金」に当たる部分を判別することができるか否か、②判別できる場合には、割増賃金の金額が、「通常の労働時間の賃金」の金額を基礎として、労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の金額を下回らないか否か、を審理し直すために、東京高裁に差し戻すと判示した。
 私は、この判決は、公序良俗違反で判決を出した一審及び控訴審判決の論理を批判して、労基法37条に基づいて判断を出すべきといっているだけで、最高裁が請求棄却の判断を出したものではなく、何ら敗訴したとは思いませんでした。判決後の記者会見でも、「この判決は労働者敗訴の判決ではない。ドローの判決だ。」と述べました。ある新聞社は、この最高裁判決を、「歩合給から残業代差し引く賃金規則は「有効」」と報道した。これは判決の読み間違えによる誤報だと思います。
 通常、最高裁で差し戻された場合には、どちらを勝たせるべきか明らかであることがほとんどであると思われますが、本件最高裁判決は、結論が明らかではない内容でした。そのため、一次訴訟差戻審においても二次訴訟控訴審においても、弁論準備期日において、裁判官から最高裁判決の読み方がわからないと率直に言われ、その解釈を問われるという稀な展開になりました。弁護団は、法政大学浜村彰教授に意見書を作成していただき提出しました。また、京都の渡辺輝人弁護士の呼びかけで、労働弁護士中心に作られた労基法37条研究会に浜村先生にも参加していただき、第二次上告審についての意見を頂きました。
 その後、第1次、第2次訴訟はそれぞれ東京高裁で敗訴判決を受け、第3次、第4次訴訟も、それぞれ東京地裁で敗訴判決を受けました。この時点で、第1次から第4次まで、全ての敗訴判決がそろったわけです。
 これらの敗訴判決を受けても、弁護団も原告団も怯みませんでした。私たちは、最高裁での逆転勝訴を確信していました。私は、もし、最高裁がこの事件で、労働者敗訴の判決を書いたとしたら、それは「残業代ゼロ」制度を認め、労基法37条の空文化を認めるものであり、これは日本の労働法法制の否定につながると考えました。残業代請求をめぐる最高裁の動きを見ていて、今、最高裁がそういう方向に動いているとは、到底、思えませんでした。
 2020年3月30日、最高裁判所第一小法廷は、国際自動車事件(第1次訴訟・第2次訴訟)につき、原審(東京高裁)の一審原告(=労働者)敗訴の判決を破棄し、東京高裁に差し戻す判決を出した。一審原告勝訴の判決です。
 もし、最高裁が差戻審のような形式的な判断をして、このような脱法行為を許容していたら、労基法37条は死文化していました。いや、労基法37条のみならず、日本の労働法制が無意味なものになり、憲法27条2項による労働者保護が空洞化していくことになったと思います。判決を聞いて、ほっとしたというような気持でした。日本の労働法制が無意味になるような判決を出させなくてよかったと思います。
 最高裁逆転勝訴判決まで8年間の闘いでした。長い闘いでしたが、各段階で精いっぱい闘ってきたためか、あっという間だったような気もします。
 本日、日本労働弁護団賞を頂き、本当にうれしく思います。この最高裁判決を労働者の権利の前進のために生かしていけるように闘い続けることをお誓いして、受賞の挨拶とします。
 ありがとうございました。

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