技能実習制度適正化実施法案に対する意見書(実習生弁連)

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本日、外国人技能実習生問題弁護士連絡会(実習生弁連)は、「技能実習制度適正化実施法案に対する意見書」を執行しました。

                                2015年8月28日
内閣総理大臣  安 倍 晋 三 殿
法務大臣  上 川 陽 子 殿
外務大臣  岸 田 文 雄 殿
厚生労働大臣  塩 崎 恭 久 殿
経済産業大臣  宮 沢 洋 一 殿
国土交通大臣  太 田 昭 宏 殿

                         外国人技能実習生問題弁護士連絡会
                          共同代表 指 宿 昭 一
                          共同代表 小野寺 信 勝
                          共同代表 大 坂 恭 子
                          事務局長 高 井 信 也

         技能実習制度適正化実施法案に対する意見書

第1 はじめに
 政府は、2015年3月6日、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」(以下「技能実習適正化法案」ないし単に「本法案」という)を閣議決定し、国会に提出した。
本法案は、暴力、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段による技能実習の強制、技能実習不履行に関する違約金等の予定の禁止等明記して罰則を科す等の制度「適正化」措置を盛り込む一方で、技能実習3号を創設し現行制度では合計3年を上限とされているところを更に2年延長するなど、制度「拡充」措置をも合わせて定めている。
当連絡会は、技能実習制度が途上国への技術移転を通じて国際貢献を図るための制度でありながら、現実には安価な労働力確保のために用いられているという制度目的と実態の乖離や技能実習生に実習実施機関を自発的に選択することも許されず対等な労使関係が構築できないなどの構造的問題が人権侵害を引き起こしていることから、技能実習制度は廃止すべきであり、非熟練労働者の受入れについては、労働者に対する人権侵害を生じさせる構造的問題を克服した、非熟練労働者受入れを目的とすることを正面から認めた新たな労働者受入れ制度を構築すべきであると考えている。
 ところが、技能実習適正化法案は、技能実習制度を存続、拡大させることを前提とするものであり、技能実習生の人権侵害を解消するものではないから、当連絡会が本法案を積極的に受け入れる余地はない。
特に、本法案が技能実習期間の延長等の制度を「拡充」する規定を設けたことについては、到底受け入れられるものではない。また、本法案では監督の強化策や人権侵害等の予防や技能実習生保護といった制度「適正化」のための規定も規定されているが、その内容も不十分と言わざるをえない。
 とはいえ、技能実習生制度が当面の間存続する以上、少なくとも以下に具体的に指摘するような本法案の問題点を解消し、技能実習生の保護をより実効化するよう求める。

第2 外国人技能実習制度の「拡充」の問題点
1 技能実習3号を創設すべきでない
技能実習適正化法案は,既存の制度(技能実習1号及び同2号の合計3年)に加え,技能実習3号(2年)を新設し,優良な実習実施者及び監理団体に限定して3号への移行を認め,合計5年間の実習を可能とする(法案2条、9条)。
しかしながら,技能実習制度は,転職の自由がないことや、制度利用のための母国での借金、送出し機関やブローカーとの間の違約金規定や保証金の存在などから,自ら救済を求めることができない構造になっており,国際社会から人身取引にあたるとの批判を受けているところである。
 しかるに、転職の自由が原則として認められず,二国間協定も取り決められないという,制度の抜本的な問題の解決は図られていない状況において実習期間のみを延長すれば,人権侵害が長期に渡って継続することになり,到底許容できるものではない。
したがって、技能実習3号を創設して、技能実習期間を延長すべきではない。
2 技能実習生の受入人数枠を増加すべきではない
 有識者懇談会の報告書によると,法律事項ではないが,技能実習生の受入人数枠について,緩和が提言されている。現在,省令によって,一社の受入人数枠が,原則として常勤職員の20分の1に制限され、特例枠として,従業員が50人以下の場合は外国人実習生3人まで,51人~100人の場合は6人,101人~200人の場合は10人等と定められているところ,これを,常勤職員の10分の1と現行の2倍の受け入れを認め,特例枠として従業員が30人以下の場合は3人まで,31人~40人の場合は4人,41人~50人の場合は5人の受入れを提案している。
 安全教育の不備などによる技能実習生の労働災害も散見されており,受け入れ態勢が万全であるとは到底言えない現状において,受入人数枠の拡大は到底許されるものではない。
 また,技能実習制度が,技能の習得を目的とするものであると強弁するのであれば,より細やかな教育や実習を実施すべきであって,受入人数枠を拡大する理由はない。
3 職種を安易に拡大すべきではない
 技能実習の対象職種は法律事項とされてはいないが、政府において、現行の71職種130作業について、介護職種の追加等の拡大が検討されている。
 しかしながら、技能実習を受け入れる職種として適正があるかどうかは,実習生らの母国における活用可能性や,職務上求められる言語能力の問題等も加味して慎重に決定される必要があり,安易に職種を増やすべきではない。

第3 技能実習制度の「適正化」の問題点
1 二国間協定の締結を明記すべきである
 送出し機関による保証金等不当な金銭の徴収や管理,労働契約不履行に係る違約金を定めるような不当な契約を締結すること等による、技能実習生に対する人権侵害が多発しており、送出し機関への規制を実効化する必要がある。
しかしながら、送出機関規制について、分科会報告や有識者懇談会報告では、「二国間協定」「政府(当局)間取決め」を締結すべき旨提言されたにも関わらず、技能実習適正実施法案では、そもそも規定すらない。
本法案で「二国間協定」の締結を明確に規定すべきであり、「二国間協定」の締結まで効力が発生しない旨明記すべきである。
2 監理団体の必要経費を明確化すべきである
 本法案28条(監理費)は、2項で「監理団体は、前項の規定にかかわらず、監理事業に通常必要となる経費等を勘案して主務省令で定める適正な種類及び額の監理費を団体監理型実習実施者等へあらかじめ用途及び金額を明示した上で徴収することができる。」と規定する。
しかし、現行制度下においては、監理団体が徴収する監理費は、管理事業に通常必要となる経費とは無関係に、技能実習生1名あたり2~3万円という一律の金額で徴収されているケースが多く、受入れる技能実習生の多い監理団体の役員の高額な報酬や接待費等の原資となっているという実態がある。そして、実習実施機関が、監理費の負担を技能実習生の賃金に転嫁する結果、5項で述べる通り、技能実習生の賃金は最低賃金レベルとなっており、実質的には、労働基準法の禁じる中間搾取の弊害が発生している。
そこで、主務省令において、「通常必要となる経費」に監理団体役員の不当に高い報酬や接待費等を含まないよう明示すべきである。
3 外国人技能実習機構の相談・援助等の業務を専門家等に委託すべきである
 本法案では、外国人技能実習機構を認可法人として新設し、技能実習生に対する相談や情報提供、援助、技能実習生の保護等を行うとされている(法案57条、87条2号等)。
 相談・援助制度の整備自体は必要な措置と考えるが、技能実習生の保護、救済及び相談対応のためには、機構の対応のみでは不十分であり、法テラスや弁護士会等の法律の専門家や、外国人の相談業務に精通したNGO等に相談等の業務の一部を委託すべきである。
 なお、従前、JITCOが行なっていた巡回指導については、2013年の総務省の行政評価においても、「実習実施機関の不正行為等を指摘することができていない」と評価され、相談業務も不正行為の防止に寄与していたとは言い難かったことから、機構は組織や人的公正において、実態としてJITCOから明確に切り離して成立させるべきである。
4 実習実施機関の変更・選択を認めるべきである
 技能実習生は、労働者でありながら職場移転の自由がなく、そのため対等な労使関係の構築が困難で深刻な人権侵害が続出するという点に、技能実習制度の構造的な問題点がある。
 したがって、技能実習期間を通じて、技能実習生に帰責性が無い場合にも広く実習先の変更を認めることのほか、仮に技能実習3号を創設する場合には、少なくとも3号移行時の実習先の選択を認めることを明記すべきである。
5 日本人と同程度の賃金水準の確保を明記すべきである
 本法案では、技能実習生の待遇について、「技能実習生の待遇が主務省令で定める基準に適合していること」し(法案9条9号)、省令に委任している。
 もっとも、現行でも、法務省令(上陸基準省令)において「日本人が従事する場合の報酬と同等額以上」とされているが、現状、技能実習生の賃金は最低賃金レベルであり、高卒初任給を大幅に下回っており、法務省令は実効性を伴っていない。
 したがって、本法案においても、技能実習生の報酬について、日本人と同額以上の水準を確保すべき旨明記すべきであり、例えば、建設業においは、「公共工事設計労務単価」など客観的かつ具体的な指標を用いるなどの規定を設けて、技能実習生の待遇の向上を図り、実質的な低賃金労働者との批判を解消すべきである。
6 罰則規定の実効性を担保すべきである。
(1)違約金等の禁止
 本法案は、実習監理者等は技能実習生やその親族等と違約金や損害賠償額を予定する契約を禁止し(法案47条1項)、罰則を設けている(法案101条4号)。
 しかし、技能実習生の違約金契約は、たとえば、マスコミや行政への通告、さらには妊娠などの私生活上の行為も広く対象とされることがある。
 そこで、本法案では違約の対象は、「技能実習の契約の不履行」とされているが、私生活上の行為を違約の対象とするべきである。
 また、技能実習生との間の違約金契約は送り出し機関やブローカーとの間で締結される事例が多いことから、法の適用対象を実習監理者等に限定すべきでない。
(2)強制貯蓄の禁止
 実習監理者等の技能実習契約に付随した貯蓄又は貯蓄金管理の契約を禁止し(法案47条2項)、罰則を設けている(法案101条4号)。
 しかしながら、技能実習生との間の違約金契約は送り出し機関やブローカーとの間で締結される事例もあることから、法の適用対象を実習監理者等に限定すべきでない。
(3)旅券等の取り上げ
 本法案では、実習実施機関及び監理団体(以下「技能実習関係者」という)の役員・職員におる旅券や在留カードの保管を禁止し(法案48条1項)、技能実習生の意に反して旅券等を保管した場合の罰則を設けている(法案101条5号)。
 しかしながら、旅券等の保管は実習実施関係者だけでなく、送り出し機関職員やブローカーによってなされる事例もあることから、法の適用対象を技能実習関係者に限定すべきではない。
 また、本法案では技能実習生の意に反しない保管には罰則が科されないことになるが、技能実習生がその意思によって旅券を預けることは想定し難く、また、技能実習関係者と技能実習生との支配従属関係から技能実習生が技能実習関係者の保管の申し出があればそれを拒否できない場合が多いことから、一律罰則の対象とすべきである。
(4)私生活の自由の制限
 本法案では、技能実習関係者は、技能実習生の外出その他私生活の自由を不当な制限の禁止規定を置き(法案48条2項)、同規定に違反して、技能実習生に解雇その他の労働契約上の不利益又は制裁金の徴収その他財産上の不利益を示して、通信や面談、外出の全部又は一部の禁止を告知した場合の罰則を規定している(法案101条7号)。
 しかしながら、技能実習生の私生活の自由は、技能実習関係者だけでなく、送り出し機関職員やブローカーによって制限される事例が多いことから、法の適用対象を技能実習関係者に限定すべきではない。
                                                            以 上

意見書PDF↓
150828弁連意見書案完成

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